「そういえば團長と香里はどんな力を持ってるんだ?」
校長室から教室棟に向かう際、俺は團長と香里に訊ねてみた。應援團は全員“蝦夷力”の保有者で、潤と斉藤の能力は昨日見たし、副團の能力は大まかだけどさっき聞いた。
では、残りの應援團員の2人はどんな能力を持ってるのだろう。應援團が能力者だというのは最重要機密だというのは知っているが、もう俺は應援團側の人間になったようなものだし、今後のことも考えて聞いておこうと思った。
「俺の能力か。口で喋るよりも実際に試した方が早いな。相沢、なんか心の中で思ってみろ!」
「心の中で? どうして?」
「いいから何か考えてみろ!!」
「は、はい……!」
俺は團長に催促されるがままに、心の中で何か思ってみた。
(團長ってホントリアル妹萌えだよな〜〜。実妹に萌えるのはまだいいとして、伊吹先生の妹に萌えるのはさすがにどうかなって思うよ……)
「あぁん!? なんだと相沢、俺が風子ちゃんに萌えてるのがそんなに悪いってか〜〜!!」
「えっ、誰もそんなこと言ってな……」
「言ってなくても心の中で叫んだだろうが〜〜!!」
「えっ? えっ?」
俺は何が何だか分からなかった。確かに心の中でどうかと思ったけど、別に口に出したわけじゃないし、どうして俺が心の中で思ったことが分かるんだ?
「つまり、今のが宮沢の能力というわけさ」
俺は萌えてる所か寧ろ愛している、一目惚れした風子ちゃんを将来必ず嫁にするなどと騒いでる團長の横で、副團が冷静な声で解説してくれた。
「今のって?」
「“人の心の声が読める”。それが團長の能力なんだよ」
「えっ!? つまり團長は“サトリ”ということですか」
「まあそういうことになるね。これは僕の仮説だけど、所謂サトリと呼ばれる人の心を読める人々は、團長と同じ能力を持った人だと思う」
「けど、人の心を読むだなんて……」
それは既に人の潜在能力を発揮させるという“蝦夷力”の範疇を超えている気がするのだが。
「“蝦夷力”の範疇を超えていると思うか、相沢?」
「えっ!?」
まさか、今考えたことも團長に伝わったのか!?
「さっき、西澤が言ってただろうが! 霊は原子や素粒子で作られたものだって。人の心だって似たようなものだ。心なんて言うけど、実際は脳波の塊みたいなものだ。用は俺の能力はラジオが音波を受信するように、人の心という“脳波”を“受信”できる能力ってワケさ」
成程。確かに人の心というのが“存在”している以上、それを受信できる潜在能力を人が持っていても不思議ではない気がする。
なお、團長の能力はあくま“受信”であり、“送信”はできないらしい。つまり、人の心は読めても人に自分の心を送ることは出来ないらしい。だから、送受信が可能な携帯電話よりは受信しかできないラジオの方が例えとして適切だとのことだった。
とは言いつつ、一つのチャンネルしか受信できないラジオと違い、半径数十mが限界とはいえ複数人の心を読めるらしい。人の心を読むのは著しいプライバシーの権利の侵害だから、この間みたく誰かの相談事を解決する場合以外は、複数人どころか一人の心を除くことさえ滅多にないという話だけど。
「で、香里の能力は?」
続いて俺は香里に訊ねてみた。
「あたしの能力? そうね、口で言ってもいいけどあたも宮沢君に習って実際に試してみるわ」
ガンッ!
そう言った次の瞬間、香里は右腕を思い切り柱にぶつけた。
「香里! 一体何をしてるんだ!!」
「落ち着いて相沢君。今の行為は単なる能力を見せるための下準備よ」
「下準備?」
「ええ。まずは今ぶつけた右腕を見てみて」
そう言い香里は制服の右袖を捲り上げた。袖の先から見えた腕は、先程の衝撃で赤々と腫れ上がっていた。
「骨は折れてなさそうだけど、大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。さて、ここからが本番。いい? 相沢君。この腫れ上がった腕をよく目に焼き付けておくのよ」
「あ、ああ……」
俺は香里に言われるがままに、香里の右腕を凝視した。さっきから香里は大丈夫大丈夫だって言ってるけど、俺は気が気でいられなかった。何と言うか、少女が傷付いた姿を目に入れられなかったって言うか……。
「……」
「えっ!?」
一瞬俺は目を疑った。香里が無言で左手を右腕に当てると、赤々としていた右腕の腫れが、瞬時に消え去ったのだった。
「これがあたしの能力。言わば常人より優れた再生能力。人間、ちょっとした擦り傷や腫れ程度は数日あれば自然治癒するでしょ? あたしは常人よりその治癒能力が優れているだけよ。
最も、優れているといっても自然治癒能力の限界を超える傷の再生は不可能。さすがに試すわけにはいかないけど、ちょん切った指を元通りに接合したり、銃で打ち抜かれた心臓を元通りにしたりするのは無理だと思うわ」
「へぇ〜〜。じゃあさ、擦り傷程度なら他人の傷を治せたりするわけなのか?」
「不可能よ」
「えっ、なんで?」
自分の傷を治せるのだから、他人のちょっとした傷を治すくらい朝飯前に思えるんだけど。
「蝦夷力の本質は、あくまで“自身の潜在能力を引き出す”こと。他人の傷を治すっていうのは自分以外の人を治療する行為。それは“自身の潜在能力を引き出す”範疇を超えるもの。
だから他人の傷を治すのは不可能なの。用はあたしの能力は“ホイミ”じゃなく“めいそう”ってこと」
成程。ホイミ、めいそうとは国民的RPGで知られるドラゴンクエストの回復呪文及び特技だ。どちらもHPを回復させる能力には相違ない。しかし、ホイミは自分を含めた仲間にも使用出来るのに対し、めいそうは自分自身のHPしか回復出来ない。だから香里の能力は“めいそう”だということか。
「まっ、あたしも当初は自身の再生能力を高められれば他人の治癒もできるようになるって思ってたけど、現実はそう甘くはなかったようね……」
あくまで自己の再生しかできないという超えられない能力の壁に、香里は落胆の様子を見せた。
……何だろう? 香里の気持ちがやけに理解できるような気がする。他人の傷を治したいのに治せないもどかしさ、やるせなさが。何で自分は香里の姿を見てそんな気持ちを抱いたのだろう? それに、ずっと昔どこかで自分以外のものを再生した行為を見た気がしてならない……。
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第弐拾参話「力求めし者と拒絶せし者」
『新作パ〜〜ンが出〜〜たぞ!! コイツはドデカイカツサンド!! クセになる!! クセになる!! 後輩たちにはナイショだぞ!!』
4時間目が終わるや否や、潤と斉藤は軽快な歌を歌いながら教室を走り出て行った。どうやら一昨日発売された新作のカツサンドが口に合ったらしく、今日も何としてでも手に入れようと走って行ったようだ。
俺も2人に交じっても良かったが、公衆の面前でヲタ的ソングを叫びながら集団で走る勇気はなかったので、ゆっくりとした足取りで学食へと向かおうとする。
水高の学食は校舎と連結しておらず、一旦昇降口から外に出なければならない。何でそんな不便な場所にあるか一昨日潤に訊ねてみたら、次のような答えが返ってきた。
そもそもこの高校には以前まで学食はなかったとの話だった。4,5年前学食を新設しようとの案が出た時、新たに建物を建てるより既存の建物をリフォームした方がコストがかからないと、白羽の矢が立ったのが高校創立60周年記念に作られた建物だったという。
60周年記念館は体育館に隣接し、校舎よりは校庭寄りに位置する。学食は購買の機能も併用し、その場所だと放課後部活動を行う生徒でもわざわざ校舎に戻らず気軽に学食を利用できるから位置条件は最適だと判断され、最終的に60周年記念館をリフォームするという結論に達したとの話だった。
また、学食が校舎から離れていれば、無闇に授業をサボり学食で暇を潰す不徳な生徒も出て来ないとの、教諭陣の目論みもあったとのことだった。
「祐一さん!」
そんな学食へ向かう途中、ある少女に声をかけられた。
「栞ちゃん!」
声の主は栞だった。
「その格好を見ると、今日もこっそり家を抜け出して誰かに会いに来たのか?」
「はい、一昨日は結局会えませんでしたので。お昼時間ともなれば学食へ向かう途中すれ違うと思ったのですが、それらしい人は見かけませんでした。先程北川さんが横を通り過ぎたので聞こうと思ったのですが、何やらお忙しそうに学食の方へ走って行かれたので、声をかける余裕がありませんでした」
「ははっ、潤の奴新作パンで頭が一杯だからな〜〜」
一瞬栞の口から潤の名前が出たことに違和感を覚えたが、よくよく考えれば潤は應援團というこの学校の生徒なら誰でも知っている組織に属している人間だ。なので、栞が潤の名前を知っていても不思議はないと、違和感は一瞬で消え失せた。
「誰を探してるのかな? まだ転校して間もないけど、探すのを手伝えないこともないぞ」
一昨日と同じ無駄足を踏ませるわけにはいかないと、俺は少しでも栞の力になってやりたいと誰を探しているのか訊ねてみた。
「はい。“川澄舞”さんという方を探しているのですが、ご存知ありませんか?」
「川澄舞っ!?」
その名が出たことに俺は驚きを隠せなかった。何で栞の口から舞先輩の名が……。
「3年生の方であると言うのは以前小耳に挟んだ話から推測できるのですが、それ以上のことは知りません。川澄さんに関して何か知りませんか、祐一さん」
「いや、一応知ってることは知ってるんだけど……」
実の所、未だに舞先輩が三年の何組か知らないので、ここのクラスを訪ねれば会えるなどと具体的なアドバイスはできない。それよりも、ここ数日の件からどうにも舞先輩と距離を置きたい自分がいる。俺や北川に見せた病的で狂気的な一面を持った舞先輩。そんな人を栞に紹介してもいいのだろうかと、俺は躊躇わずにいられなかった。
「あははーっ、祐一さ〜〜ん!」
そんな時、3階の渡り廊下から佐祐理さんが手を振りながら声をかけてきた。
「今日も佐祐理たちとご一緒しませんか〜〜?」
「えっ? あはは、どうしようかな〜〜?」
佐祐理さんと一緒に昼食を取るのは構わないけど、なるべくなら舞先輩と顔を合わせたくないし、栞がいる手前誘いを受けてもいいものだろうかと悩む。
「祐一さん、あの方は?」
「ああ、前生徒会長の倉田佐祐理さんだよ」
「ああ、あの『鋳造の皇女』の二つ名で知られる」
佐祐理さんの名前を語ったら、即座に栞の口から鋳造の皇女の二つ名が出て来た。実際の佐祐理さんの治世を知らない一年生にもその名が知れ渡っているとは、それだけ佐祐理さんの知名度は高いということか。
「そちらの方もどうですか〜〜?」
佐祐理さんは俺と話していた栞にも声をかけて来た。
「いいですね。ご一緒しましょう」
対する栞は、二つ返事で佐祐理さんの誘いに応じた。
「いいの? 栞ちゃん」
「ええ。倉田先輩は3年生の方ですから、祐一さんより川澄先輩のことに詳しいでしょうし」
「ははっ、確かに佐祐理さんの方が詳しいけど……」
詳しいと言うか、これから向かう場所にいるハズなんだけど。果たして舞先輩と栞をこのまま合わせてもいいのかと思いつつ、俺は屋上へのの踊り場に向かおうとする。
「そういやこれから屋上の方へ向かうんだけど、私服で校舎内に入るのはどうなのかな?」
屋上へと向かおうとした矢先、栞が私服であることに気付き、私服姿で校舎内へ入るリスクを栞に問い質してみた。
「そうですね。さすがに教室棟を歩くのはマズイですね」
「じゃあ、やっぱり今回の話は……」
「確か体育館へ通じる渡り廊下から校舎内へ入れるはずです。そこからなら教室棟を通らずに屋上へ向かえますよ」
「ああそうなの。じゃあそうするか」
この様子だと栞は意地でも屋上へ向かおうとするので、俺は栞の提案に従うことにした。確かに渡り廊下から入ればリスクは少ないが、それでも幾人の生徒とは顔を合わせることだろう。まあ、栞は一年生で俺は転校して間もない人間だから、どっちも顔見知りはそんなに多くないので、変な噂が広まる可能性は低いだろう。
仮に知り合いに見つかったら、「これから屋上で他校生徒と一発やる所だから内緒にしててくれよ」とか誤魔化しておけば問題ないだろう……
……って、それだとかえって噂が広まるだろうがっ! 落ち着け相沢祐一。そもそも栞はこの高校の生徒なんだし、「知り合いの下級生なんだけど、制服全部クリーニングに出していたから仕方なく私服姿なんだよ」とか適当に誤魔化すのが一番無難なんだ!!
などと、万が一他生徒に現場を目撃された際の対応を考えながら、俺は栞と共に屋上へ通じる踊り場へと向かって行った。
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幸い、数人の生徒とはすれ違ったものの、誰も俺たちを気にも留めなかった。あらゆる心配事は杞憂に終わり、無事昼食会場へ辿り着いた。
「あははーっ、栞さんって言うのですね〜〜。佐祐理は倉田佐祐理と言います。以後お見知りおきを」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
佐祐理さんは栞の私服姿を特に気にする様子もなく、平然と自己紹介を交わした。恐らく栞が何らかの事情で私服姿でいることを察し、敢えてそのことを話題の俎上に挙げないように心掛けているのだろう。この辺りの心遣いは、さすがは年の功と言ったところか。
「それで、そちらの方は?」
栞は佐祐理さんの隣に座り、さっきから黙って昼食を取り続ける舞先輩に声をかけた。
「……」
舞先輩は栞の声に反応し眼を合わせるが、何故かもの悲しそうな顔をしたままじっと見つめるだけだった。
「ほらっ、舞も自己紹介」
見かねた佐祐理さんが、栞に名を語るように促した。
「舞……? ひょっとしてあなたが川澄舞さんですか?」
「コクリ……」
舞先輩が口を開くよりも早く、栞が先に名を訊ねた。舞先輩は返事こそしなかったものの、軽く頷いた。
「そうでしたか。私が追い求めていた川澄先輩がまさか倉田先輩のお知り合いでしたとは。『そうか それがじぶんのうんめいだったのか!』という感じに嬉しいです」
「ははっ。『人のみらいを かってにきめるなよ』じゃなく?」
「はい。これも火のデステニィストーンのお導きですね」
俺は栞と意思疎通ができたことを嬉しく思いつつ、佐祐理さんと舞は呆気に取られているんだろうなぁと、2人の方へ顔を向ける。
「あははーっ、そのイベントをこなさないと後々『テオドールを追って』を発生させられなくなって、火のルビーの入手が不可になってしまうんですよね」
「『コンスタンツ誘拐』は皇帝の奇病と時間を調整しながら進めなきゃいけないから、色々と大変……」
……と思ったが意外や意外、2人ともノリノリで話題に付いて来ている。潤の時もそうだったが、自分の近くにこれほどまでにサガシリーズ好きがいるとは!
我が国における代表的なRPGはDQとFFであり、サガシリーズは一般的に知名度が低い。故に、一般人に対しサガネタを振っても理解できる人が低いのだ。特に初代GBサガなどはイカした名台詞の宝庫なのだが、大概の人間には単に汚い言葉を吐いているようにしか聞こえないのが残念に他ならない。
「ところで一番好きなデステニィストーンは何かな? 俺はやっぱりイフリート対策万全な水のアクアマリンかな?」
調子に乗ってみんなに一番好きなデステニィストーンを聞いてみる。ちなみに俺が一番好きな水のアクアマリンは、火の術法を無効化し、終盤の強敵であるイフリートの火の鳥を無効化できるのだ!
火の鳥は一発でパーティを全滅に追い込むほどの強力な術で、このアイテムか同じく火の術法を無効化できる火神防御輪がないと全滅は必至だ。火神防御輪の入手は難しく、対する水のアクアマリンは比較的容易に入手できる。そういった理由から俺は水のアクアマリンを推したい。
「あははーっ、確かに水のアクアマリンは最も実用的なデステニィストーンかもしれませんね。でも、イフリートは風の術法のアイスジャベリンがあれば運良く一撃で倒せたりしますので、佐祐理は敢えて幻のアメジストを薦めたいです」
「幻のアメジスト? どうして?」
「まずは入手が一番簡単なデステニィストーンですし、何より邪術のアゴエイを防げるのはアメジストだけですし。ほら、植物系モンスターのアルラウネなんかに煩わしい思いをしたことありません?」
「あ〜〜あ、あります。アレ食らうとほぼ全員『動けない』になっちゃうんですよね。ロマサガ1時代ですと『スタン』という表記じゃないから余計かっこ悪くて」
そういえば邪術のアゴエイには大分手を焼いたっけ。アレを下手に食らうと、最悪1ターン何もできなくなっちゃうからな。あんまり強敵と一緒に出て来なかったのが幸いだったけど、煩わしい思いをしたのは確かだ。直接的なダメージを無効化できるという点ではアクアマリンに軍配が上がるけど、アゴエイのスタン効果を唯一防げるアイテムという点ではアメジストに軍配が上がるだろう。
「私は気のムーンストーンですね」
「へぇ。意外だなぁ。あのアイテム対して補助効果がない上に腕に装備するから全体的な防御力が下がっちゃうんだよな」
「はい、確かに。でも、手に入れるのにえらく苦労しますし、取りに行く時期が遅いと『皇帝の奇病』が終了しちゃったりするじゃないですか。効果は薄いですけど、一番手に入れた実感が湧くデステニィストーンだと私は思います」
成程。そういった捉え方もあるか。確かに気のムーンストーンは手に入れるのが一番ややこしい気がする。それだけに、一番苦労して手に入れた実感が湧くデステニィストーンだと言えるだろう」
「それにほら? どんな病でも治せる石って素敵だと思いません? ムーンストーンがあればどんな病気でも治せる。そう、どんな病気でも……」
「?」
何だろう? 栞が気のムーンストーンが好きだという理由には、単に手に入れ甲斐があるという理由以外の理由がある気がしてならない。
「私は光のダイヤモンド……」
「光のダイヤモンドか。分かる気もするな。結構重要そうなアイテムなのに、結局手に入らないもんな」
設定的にはラスボスの妹に当たるシェラハというモンスターを封印しているというアイテムなのだが、ゲーム中でシェラハと戦う機会はなく、故に入手は不可能だ。それらの情報は攻略本などに目を通して初めて分かる事実であり、ゲーム中には一切描かれていない。なのに、ゲーム中ではあたかも存在するかのように描かれており、光のダイヤモンドの存在を求めて世界中を捜し歩いたプレイヤーも多いことだろう。手に入らないが故に好きだ、というのは十分理解できる。
「あれは闇の力を抑えられるデステニィストーン……。もしあれがあれば“私の魔物”も封じられる……」
「?」
もし光のダイヤモンドがあれば例の魔物も封じられるということだろうか? 確かに悪霊は“闇の力”を保有していると捉えれれば、光のダイヤモンドで封印出来る気もするけど。
「ところで川澄先輩、折り入って話があるのですが、宜しいでしょうか?」
互いの意思疎通ができた頃合いを見計らい、栞は本題に入っていった。
「別に構わないけど……」
「ありがとうございます。ここで話すのもなんですし、屋上の方へ向かいましょう」
「分かった……」
舞先輩は栞の誘いに応じ、2人で屋上の方へ向かっていった。
「祐一さん。栞さんは一体舞に何の用があるんでしょう?」
「さあ?」
佐祐理さんに栞が舞先輩を訊ねる理由を訊かれたけど、その実俺も何で栞が舞先輩に用があるか知らない。
「大方應援團の断り方を訊きたいって所じゃないですか」
俺は理由が分からないので、適当に答えてみる。実は栞は應援團への入団を強く迫られていて、実は学校を休んでいるのもそれが理由だとか。
「あはは、その程度なら良いのですが……」
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「ちょっと、どういうことですかそれっ!」
「!!」
佐祐理さんと談笑を交わしている間に突然響いて来る栞の叫び声。一体上で何が起こってるんだ!?
「佐祐理さん、状況を確認しに行きましょう!」
「え、ええ……」
状況が気になり、俺は佐祐理さんと共に屋上へ駆け付ける。
「ウソでしょ! 北川さんとお姉ちゃんが話してるのをコッソリ聞いたんですよ!! 川澄先輩は自分達よりも強い力を持ってるって!!」
すると、そこでは栞が鬼のような形相で舞先輩を問い詰めていた。
「だから無理だって言ってる……。どんな力を持っていたって死に行く者を助けることはできない……」
そう語る舞先輩はどこか悲しげな表情を浮かべていた。
「そんなの……試してみなきゃ分からないじゃないですか! それとも人間で試すのは忍びないですか? それなら今からこの場に適当に捕まえた生き物を持って来て瀕死の傷を負わせますよ! それで試せばいいじゃないですか!!」
な、何だ? 栞は一体何を言ってるんだ!? 捕まえた生物に瀕死の重傷を負わせるだなんて、一体栞は何を考えているんだ……?
「だから無理だって言ってるでしょ!!」
栞のあまりの暴言の数々にとうとう堪忍袋の尾が切れたのか、今まで冷静に応対していた舞先輩が、突然堰を切ったように叫び出した。
「そうですか……。こんなに頼んでも駄目なんですね……。薄情な人、あなたには死に逝く者の気持ちが分からないんでしょうね……!!」
パチーン!!
そんな時だった。舞先輩が思いっきり栞の頬を平手で叩いたのだった。
「あなたこそ……あなたこそ死に逝く大切な人に何の施しもしてやれずに見守ることしかできなかった人の気持ちが分かるって言うの!? 衰えるように死んで大気へと還って行ったお姉ちゃんをただ見守るしかなかった私の気持ちが!!」
ズクン……!
あれっ、何だろう……。あなたこそ死に逝く大切な人に何の施しもしてやれずに見守ることしかできなかった人の気持ち……!? 何だろう、何だろう……? 舞先輩の言葉が嫌に耳に張り付いて離れない。その言葉を心の中に響かせれば響かせるほど胸がきつく締め付けられるような気分になる。
本当に何なんだこの気持ちは。俺は自分の中に湧き上がってくる感情を理解できなかった。ただ、何となくだが、俺は舞先輩の気持ちが痛いほど分かる気がしてならない。それは俺も嘗て大切な人を失い、そして死に逝くその人をただ見守ってやることしかできなかった。そういうことなのだろうか……?
…第弐拾参話完
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※後書き
| 日常会話が書けないからってヲタネタに走るのはどうかと思いつつ、ヲタネタに走ってしまいました。この辺りはいい加減鍛え直さなきゃならないと思いつつ、ヲタネタに走った方が楽なので、つい走ってしまうのですよね。
ちなみに、「Kanon傳」では栞はアニメや漫画はあまり見ないという設定でしたが、改訂版ではバリバリのヲタクになっております(笑)。この辺りは趣味兼伏線張りといった所です。
あと、実は舞にはお姉さんがいたという設定が追加されました(笑)。これは作中における舞の重要性が増したから、新たに加えた設定です。姉がどんな人だかは後半になるまで明かしませんが、某作品のキャラを姉という設定にしたとだけ言っておきます。この辺りは徐々に明かしたいと思いますね。 |
弐拾四話へ
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